大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和55年(ワ)13029号 判決

原告

岡本七男

ほか一名

被告

省東自動車株式会社

ほか一名

主文

1  被告省東自動車株式会社は、原告岡本七男に対し、金一〇一一万四五四二円及び内金九三四万九五四二円に対する昭和五五年二月五日から並びに内金七六万五〇〇〇円に対する昭和五五年一二月一七日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告岡本康子に対し、金九六〇万四五四二円及び内金八九二万四五四二円に対する昭和五五年二月五日から並びに内金六八万円に対する昭和五五年一二月一七日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告稲崎源三は、原告岡本七男に対し金一〇一一万四五四二円及び内金九三四万九五四二円に対する昭和五五年二月五日から並びに内金七六万五〇〇〇円に対する昭和五五年一二月一八日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告岡本康子に対し、金九六〇万四五四二円及び内金八九二万四五四二円に対する昭和五五年二月五日から並びに内金六八万円に対する昭和五五年一二月一八日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  原告らのその余の各請求を棄却する。

4  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告らの、その余を原告らの各負担とする。

5  この判決は、第1、2項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告岡本七男に対し金三二五二万四九三九円、原告岡本康子に対し金三一三一万九二五六円及び右各金員に対する昭和五五年二月五日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生(以下、本件交通事故という。)

(一) 日時 昭和五五年二月五日午前一一時五〇分ころ。

(二) 場所 東京都中央区勝どき二丁目一〇番一号先路上(交差点出入口の横断歩道上)

(三) 加害車 普通乗用自動車(練馬五五え四六〇〇)

右運転者 被告稲崎源三(以下、被告稲崎という。)

(四) 被害車 婦人用足踏式二輪自転車

右運転者 原告岡本康子(以下、原告康子という。)

右同乗者(被害者)訴外亡岡本祐子(以下、亡祐子という。

(五) 態様 亡祐子は原告康子が運転する前記自転車の後部座席に乗つていたが、本件事故現場において自から右自転車から降り尻もちをついたところを被告稲崎運転の加害車に衝突され、同車に引きづられて脳幹部損傷、頭蓋骨複合骨折により死亡した。

2  責任原因

(一) 被告省東自動車株式会社(以下、被告会社という。)

被告会社は加害者を自己のために運行の用に供していたものである。

(二) 被告稲崎源三

被告稲崎は、前記日時ころ加害車を運転して前記場所にさしかかり、豊海方面に進行すべく晴海通りから清澄通りに右折する際、前方注意義務を怠つた過失により自車を亡祐子に衝突させて、死亡させ後記損害を生ぜしめた。

3  権利侵害

(一) 亡祐子は本件交通事故により前記日時場所において死亡した。

(二) 原告岡本七男(以下、原告七男という。)及び原告康子は実子亡祐子を右本件交通事故により前記のように死亡させられた。

4  損害

(亡祐子の損害)

(一) 逸失利益 金三三四六万八二七二円

亡祐子は、昭和五〇年一〇月一四日生れの本件交通事故当時満四歳三ケ月の健康な女児であつて、本件事故に遭遇しなければ、高校卒業後である満一八歳から女子の平均余命の範囲内である満六七歳に達するまでの四九年間稼働できた筈であり、その間の収入としては、労働省労働統計調査部の賃金センサス(昭和五四年度)第一巻第一表による産業計、企業規模計、金労働者の全年齢平均の賃金額により月額二二万五三八三円とみるのが相当であり、その間の生活費は全稼働期間を通じて収入の三割とし、新ホフマン方式により年五分の中間利息を控除して計算すると亡祐子の逸失利益の現価は金三三四六万八二七二円である。

(二) 慰藉料 金七〇〇万円

亡祐子は、本件交通事故によりわずか四歳にして生命を絶たれ、極めて大きな精神的苦痛を受けた。これを慰藉するには金七〇〇万円が相当である。

(三) 相続

原告ら両名は、亡祐子の相続人(実父母)であり、亡祐子が有する右(一)、(二)の合計金四〇四六万八二七二円の損害賠償請求権を各二分の一ずつ相続したのであるから、それぞれ金二〇二三万四一三六円の損害賠償請求権を相続取得した。

(原告七男)

(四) 葬儀費用 金五〇万円

原告七男は亡祐子の死亡に伴い葬儀費用として金五〇万円の支出を余儀なくされた。

(五) 慰藉料 金七〇〇万円

原告七男は、限りない愛情を注いでいた亡祐子の生命を奪われた親としての精神的苦痛は大きく、その苦痛に対する慰藉料としては金七〇〇万円が相当である。

(六) 治療費 金四万二四二〇円

原告七男は、本件交通事故による亡祐子の死亡に基づく精神的衝撃が原因で肝炎を発病し、昭和五五年三月二日から同年五月三一日まで訴外聖路加国際病院等で通院治療を受け、治療費として金四万二四二〇円の支出を余儀なくされた。

(七) 休業損害 金五〇万六〇〇〇円

原告七男は、訴外西武生鮮食品株式会社に勤務するものであつたが、本件交通事故に起因する疾病のため前記通院期間中、右訴外会社を欠勤するの止むなきに至り、これにより給与並びに期末賞与につき金五〇万六〇〇〇円の減給処分を受けた。

(八) 弁護士費用 金四二四万二三八三円

原告七男は、被告らが任意の弁済に応じないので原告訴訟代理人に本件訴訟の提起を委任し、弁護士費用として金四二四万二三八三円の支払を約した。

(原告康子)

(九) 慰藉料 金七〇〇万円

原告康子は、深い愛情をもつて育てていた亡祐子の生命を突然の事故により奪われた親の精神的苦痛は言語に絶し、その苦痛に対する慰藉料としては金七〇〇万円が相当である。

(一〇) 弁護士費用 金四〇八万五一二〇円

原告康子は、被告らが任意の弁済に応じないので原告訴訟代理人に本件訴訟の提起を委任し、弁護士費用として金四〇八万五一二〇円の支払を約した。

5  結論

よつて、被告ら各自に対し原告七男は損害賠償金金三二五二万四九三九円、原告康子は同じく金三一三一万九二五六円及び右各金員に対する不法行為日である昭和五五年二月五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項の事実は認める。

2  (一) 同第2項(一)の事実は認める。

(二) 同項(二)の事実中、被告稲崎の過失は争う。

3  請求原因第3項(一)、(二)の各事実は認める。

4  (一) 同第4項(一)の事実中、亡祐子が昭和五〇年一〇月一四日生れの本件交通事故当時満四歳三ケ月の女児であることは認め、その余は不知。

(二) 同項(二)の事実は不知。

(三) 同項(三)の事実中、原告両名が亡祐子の実父母であることは認め、その余は不知。

(四) 同項(四)ないし(六)の各事実は不知。

(五) 同項(七)の事実中、原告七男が訴外西武生鮮食品株式会社に勤務していたことは認め、その余は不知。

(六) 同項(八)ないし(一〇)の各事実は不知。

三  抗弁

1  訴外亡祐子の過失相殺

原告康子は亡祐子を自転車の後部座席に乗せ、本件横断歩道に自転車横断帯を加えた通行路の中間位のところを右自転車にまたがり横断した。その際、亡祐子は自転車から降りようとして後部座席に腹ばいになり、足をばたつかせたりした後、横断歩道上に降り尻もちをついた格好で座つてしまつた。本件交通事故の当時、満四歳三月であつた亡祐子は事理弁識能力を有していたものであるから、横断歩道上を自転車の後部座席に乗つて通過する者はこうした場合に途中で道路上に降りるとか落ちることのないよう座席にきちんと乗るべき注意義務があるところ、これを漫然怠つた過失がある。したがつて、右被害者の過失を損害額の算定にあたり斟酌すべきである。

2  原告岡本康子の過失相殺

原告康子は、前項のように自転車の後部座席に亡祐子を乗せて横断歩道上を横断中、同人が自転車から降りようとして後部座席に腹ばいになり足をばたつかせていたが、原告康子は友人との話に夢中になりこれに気付かず亡祐子は静かに乗つていると思つていた。そして亡祐子が自転車から降りたとき自転車が前に押されるようになつたので初めて後方を確認したところ、亡祐子が路上に尻もちをついた格好で座つていた。亡祐子の親権者である原告康子はこのような場合、自転車の後部座席における亡祐子の動静を十分に監視し安全に横断歩道を渡るべき注意義務があるのに漫然これを怠つた過失がある。したがつて、原告康子自身及び被害者側の右過失を損害額の算定にあたり斟酌すべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁第1項の事実中、亡祐子が自転車の後部座席に腹ばいになり足をばたつかせていた点は否認し、その余は認め、亡祐子の過失相殺は争う。

2  同第2項の事実中、亡祐子が後部座席に腹ばいになり足をばたつかせていた点、原告康子が友人との話に夢中になりこれに気付かずとの点は否認し、その余は認め、原告康子自身及び被害者側の過失相殺は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因第1項(事故の発生)、(一)日時、(二)場所、(三)加害車、右運転者、(四)被害車、右運転者、右同乗者(被害者)、(五)態様、同第2項(被告会社の責任原因)、同第3項(権利侵害)、(一)、(二)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  いずれもその成立に争いのない甲第四ないし第一五号証(甲第四号証については原本の存在も争いがない。)及び乙第一ないし第三号証並びに原告岡本康子本人尋問の結果と前記認定の事実を総合すれば、次の事実を認めることができる。

1  本件交通事故現場は、銀座方面から晴海方面に通じる車道幅員一八メートルの平担、アスフアルト舗装の道路(晴海通り)と深川方面から豊海方面へ通じる上下各三車線、グリーン・ベルトを含めると車道幅員二二・七メートルの平担、アスフアルト舗装の道路(清澄通り)が交差する信号機により交通整理が行なわれている交差点の西側、清澄通り上に位置する横断歩道であつて、その横断歩道の幅員は四・一メートルで白色ペイントによりゼブラ模様が標示され、その東側に自転車横断帯が接して標示されている。同所は交通頻繁な場所であり、事故時の天候は晴であり、路面は乾燥していた。

2  被告稲崎は、前記日時に前記交差点にさしかかり、信号の表示にしたがい銀座方面から豊海方面に向けて右折進行するにあたり、同交差点右折方向出口に設けられた前記横断歩道上を原告康子が前記自転車にまたがり路面に足をつきながら右方から左方に進んでおり、その自転車の後部に取り付けられた幼児用乗車装置には亡祐子が腹ばいになり両足をだらりと下げて右装置にしがみつくような状態で降りようとしているのを認めたので、横断歩道の交差点内側に接して設けられた幅員一・三メートルの自動車横断帯の直前(横断歩道の手前三・五メートルの地点)で一時停止し、右自転車の通過をまつて発進しようとしたが、亡祐子の動静を注視し続けることなく、視線を移し自転車の後方に歩行者のないことを確認し、次いで運転席左方に原告康子が乗る自転車が通り過ぎていくのを確認しただけで亡祐子の所在を確認することなしに漫然時速約五キロメートルで進行した結果、同人が前記後部座席から横断歩道上に降りて尻もちをついていた亡祐子に自車を衝突させたうえ、左後輪で同人の顔面等を強圧して同人に脳幹部損傷、頭蓋骨複合骨折の傷害を負わせた。

3  原告康子は婦人用足踏式自転車(婦人用ミニサイクル)の後部の幼児用乗車装置に当時満四歳三ケ月になる亡祐子を乗せて、訴外勝どき児童館児童クラブから自宅に帰る途中、本件交差点の前記横断歩道手前にさしかかり、対面する歩行者用信号が青色に変つたことを確認した後、本件横断歩道とこれに接する自転車横断帯の双方を合わせた通行帯幅員の中央箇所を銀座方面から晴海方面に向け、訴外安達圭子と並び、話をしながら自転車にまたがり足を路面につきながら横断を始めた。しかし、原告康子は後部幼児用乗車装置に座つていた亡祐子が同座席に腹ばいになり両足を下げてばたつかせていたことに気付かず、次いで同女が横断歩道上に降り尻もちをつく形になつたとき、自転車が前に押されるようになつたのを感じて初めて後方を振り返つて見たところ、亡祐子が横断歩道上に両足を延ばし上体を立て同原告の方向に顔を向けて座つているのを発見し、亡祐子のところへ戻ろうとしたが、折柄、右方から進行中の加害車の下に入り引きづられていつたので、大声をあげながら同車を追いかけ停車させた。

以上の事実を認定することができ(右のうち亡祐子の年齢、原告康子が自転車後部に亡祐子を乗せてまたがりながら足をついて横断を始めたこと、その位置、亡祐子が降りようとして横断歩道上に尻もちをついたこと、同原告は亡祐子が降りたとき自転車が前に押し出されるようになつたのを感じて初めて後方を確認したことは当事者間に争いがない。)、他に右認定を左右する証拠はない。

以上認定の事実関係によれば、被告稲崎はこのような場合亡祐子が自転車から降りて転倒などすることも十分予測できたのであるから、同女の動静を注視し進路の安全を確認したうえ発進進行すべき注意義務があるところ、これを怠り、前方通過中の亡祐子の動静を十分に注視せず進路の安全を確認しないまま時速約五メートルで進行した過失があるというべきである。したがつて、被告稲崎は右過失行為により亡祐子及び原告らの権利を侵害し、これにより後記損害を生ぜしめたのであるから、同被告は原告らに対し損害賠償義務がある。

三1  被告らは亡祐子の過失相殺を抗弁するが、同女が本件交通事故当時満四歳三ケ月であつたことは前記認定のとおりであり、これによれば、亡祐子は事理弁識能力はないと認められるから、被告らの右主張は失当である。

2  原告康子が亡祐子の母であることは後記認定のとおりであり、同原告には、前記認定の事実関係のもとでは自転車の後部座席における亡祐子の動静を十分に監視し安全に横断歩道を渡るべき注意義務を怠つた過失があるというべきであり、原告康子の右過失は亡祐子、原告七男及び自己の各損害額の算定にあたり被害者側及び被害者の過失として斟酌するのが相当であり、右過失相殺による減額の割合は一五パーセントとするのが相当である。

四1  亡祐子の損害

亡祐子は前記一で認定したように本件交通事故によりその生命を侵害され、これにより一個の人的損害を被り、その内容を構成する損害項目と金額は以下のとおりである。

(一)  逸失利益 金九三四万九〇八五円

原告岡本康子本人尋問の結果、前掲甲第一三号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、亡祐子は昭和五〇年一〇月一四日生れの事故当時満四歳三ケ月(この点は当事者間に争いがない。)の健康な女児であつて、本件事故に遭遇しなければ高校卒業後である満一八歳から女子の平均余命の範囲内である満六七歳に達するまでの四九年間稼働し得、この間、当裁判所に顕著な労働省発表の昭和五四年賃金構造基本統計調査報告第一巻第一表産業計、企業規模計、女子労働者、学歴計、全年齢平均の年間収入額である金一七一万二三〇〇円を下廻らない所得を得ることができ、その所得の三〇パーセントを超えない生活費を要すること、以上につき高度の蓋然性が存在することが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

右認定事実を基礎としてライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して亡祐子の逸失利益の現価を計算すると金一〇九九万八九二四円(一円未満切捨)となる。

(計算式)

1,712,300×(1-0.3)×9.1764=1,0,998,924.8

そこで右金額に前記過失相殺による一五パーセントの減額をすると金九三四万九〇八五円(一円未満切捨)となる。

(二) 慰藉料 金五九五万円

叙上認定の本件事故の態様、事故の結果、亡祐子の年齢、健康状態その他本件弁論に顕われた一切の事情を総合すれば、亡祐子が本件交通事故により被つた精神的苦痛を慰藉するための慰藉料は金七〇〇万円を下廻らないと認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

右金額に前記過失相殺による一五パーセントの減額をすると金五九五万円となる。

(三) 相続

原告ら両名は亡祐子の実父母であることは前記認定のとおりであり、弁論の全趣旨により各自法定相続分の割合により相続することが認められ、他に右認定に反する証拠はない。したがつて、原告両名はそれぞれ亡祐子が有した右(一)、(二)の損害項目の合計金一五二九万九〇八五円の損害賠償請求権の二分の一にあたる金七六四万九五四二円(一円未満切捨)の損害賠償請求権を取得した。

2  原告七男の損害

原告七男は、前記一で認定したように本件交通事故により実子亡祐子を死亡させられ、これにより一個の人的損害を被り、その内容を構成する損害項目と金額は以下のとおりである。

(一)  葬儀費用 金四二万五〇〇〇円

原告岡本七男本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告七男は亡祐子の死亡に伴い葬儀費用として金五〇万円を下らない支出を余儀なくされ、他に右認定に反する証拠はない。

右金額に前記過失相殺による一五パーセントの減額をすると金四二万五〇〇〇円となる。

(二)  慰藉料 金一二七万五〇〇〇円

原告岡本七男本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告七男は深くいとおしみ育てていた亡祐子を前記事故の態様などの状況下に失つた親としての精神的苦痛は極めて大きいことが認められ、右認定の事実関係によれば、その慰藉料としては金一五〇万円を下らないと認めるのが相当である。

右金額に前記過失相殺による一五パーセントの減額をすると金一二七万五〇〇〇円となる。

(三)  治療費

原告七男は、本件交通事故による亡祐子の死亡に基づく精神的衝撃が原因で肝炎を発病したのでその治療費の損害賠償を求めると主張するが、本件交通事故により原告七男の実子亡祐子が死亡させられたことと同原告の肝炎発病との間に相当因果関係があると認めるには甲第二号証及び原告岡本七男並びに同岡本康子の各本人尋問の結果のみでは未だ足りず、他にこれを認めるに足る証拠はないので、原告七男の右主張は失当である。

(四)  休業損害

原告七男は前記肝炎による休業損害の賠償を求めるが前項(三)と同様の理由でその主張は失当である。

(五)  弁護士費用 金七六万五〇〇〇円

弁論の全趣旨によれば、原告七男は被告らが任意の弁済に応じないので原告訴訟代理人に本訴の提起及び遂行を委任し相応の報酬を支払う旨約していることが認められ他に右認定に反する証拠はない。しかして、本件事案の内容、審理の経過、前記損害額に鑑み金九〇万円をもつて本件交通事故と相当因果関係ある弁護士費用と認めるのが相当であり、これに前記過失相殺による一五パーセントの減額をすると金七六万五〇〇〇円になる。

(六)  合計

原告七男が有する損害賠償請求金額は前記四、1、(三)及び2、(一)、(二)、(五)を合計した金一〇一一万四五四二円となる。

3  原告康子の損害

原告康子は、前記一で認定したように本件交通事故により実子を死亡させられ、これにより一個の人的損害を被り、その内容を構成する損害項目と金額は以下のとおりである。

(一)  慰藉料 金一二七万五〇〇〇円

前掲甲第一三、第一四号証、原告岡本康子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告康子は深く愛育してきた亡祐子の生命を突然に前記事故の態様などの状況下に奪い去られ、言語に尽せぬ親としての精神的悲痛を受けたことが認められ、右認定の事実関係によればその慰藉料としては金一五〇万円を下らないと認めるのが相当である。

右金額に前記過失相殺による一五パーセントの減額をすると金一二七万五〇〇〇円となる。

(二)  弁護士費用 金六八万円

弁論の全趣旨によれば、原告康子は被告らが任意の弁済に応じないので原告訴訟代理人に本訴の提起及び遂行を委任し相応の報酬を支払う旨約していることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。しかして、本件事案の内容、審理の経過、前記損害額に鑑み、金八〇万円をもつて本件交通事故と相当因果関係ある弁護士費用と認めるのが相当であり、これに前記過失相殺による一五パーセントの減額をすると金六八万円となる。

(三)  合計

原告康子が有する損害賠償請求金額は前記四、1、(三)及び3、(一)、(二)を合計した金九六〇万四五四二円となる。

五  以上の次第であるから、原告岡本七男は被告らに対し各自損害賠償金一〇一一万四五四二円及び内金九三四万九五四二円に対する不法行為日である昭和五五年二月五日から並びに内金七六万五〇〇〇円に対する被告会社につき訴状送達の日であることが記録上明らかな昭和五五年一二月一六日の翌日である一七日(被告稲崎については訴状送達日は一七日であるから一八日)から各支払ずみまでそれぞれ民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告康子は被告らに対し各自損害賠償金九六〇万四五四二円及び内金八九二万四五四二円に対する右同昭和五五年二月五日から並びに内金六八万円に対する右同昭和五五年一二月一七日(被告会社。被告稲崎については同月一八日)から支払ずみまでそれぞれ民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、原告両名の本訴各請求は理由があるからいずれもこれを認容し、その余の請求はいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 稲田龍樹)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例